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第三十二話③ ※※※

Autor: 三木猫
last update Fecha de publicación: 2026-05-07 16:18:55

それから、襲撃のある8日まで。

私は、一日一回はあえて外出し、買い物をするようにした。と言うのも、お兄ちゃん達が、遭遇すると言う形を作りたいと言ったからだ。ゲームにより近づける為なんだって。

私としてはお兄ちゃん達だけ危険な目に合わせるつもりは毛頭なかったから、即頷いた。むしろ一日一回で良いのかと聞き返してしまった位だ。けど余計なことをしてもまたお兄ちゃん達の計画を崩すだけだよねとちゃんと思い止まった。

買い物をして、華菜ちゃんの家に帰って、華菜ちゃんのご家族の代わりにご飯を作って、パソコンを借りて一日分の仕事をして。これを数日繰り返した。

…私、本当にこれでいいのかなぁ…?

ちょっと不安になるよね。だって、お兄ちゃん達は忙しく動き回ってくれてるってのに、私はここで華菜ちゃんと楽しく会話しながら、仕事をしているだけなんて。いいのかな…?こんなんで…。

お兄ちゃん達の仕事だって滞るよね…。お兄ちゃん達のお店にだって迷惑がかかるだろうし…。

…お兄ちゃん達に何か他に出来る事ないかって聞きに行こうかな…。最悪何も出来なくても差し入れだけでも…。うん、そうしよう。

開いていたパソコンを閉じて、お財布を持って。部屋で勉強していた華菜ちゃんに断りを入れて、買い物に出る。

おー。いー天気ー。朝からこんなに晴天だとお昼頃には暑くなるかもなー。

動きやすい恰好で出て来て正解だったかも。えっと今日は何を買おうかな。お昼ご飯はもう決まってるから、晩御飯の材料かな。

今日の晩御飯は…華菜ちゃんパパのリクエストでもつ鍋ですっ!前回、華菜ちゃんママのリクエストを聞いたら華菜ちゃんパパが拗ねちゃったからね。今日は華菜ちゃんパパのリクエストっ。

まずはもつ鍋の一番の目玉である『もつ』を買いに行かなきゃ。透馬お兄ちゃんのお店が肉屋さんだから丁度いい。お肉、お肉~。

どんな時でもお買い物って楽しいよね~。あ、勿論警戒は怠ってませんよ?

ふっみみみ~♪

脳内でのみ鼻歌を歌いつつ、少し軽い足取りで透馬お兄ちゃんの実家のお店へ向かっていると、

「きゃあああああっ!!」

えっ!?何事っ!?

突然の叫び声。…叫び声だけど、どっちかと言うと喜び系の叫び、所謂黄色い声だったような?

女性が群れをなして走って行く。しかも皆三方向へ割れた。途中まで同じ方向に走ってたのにっ?直角に割れて行くよっ!?

あーゆー時の女子の力って何処から来るんだろうね?

絶対、自己新出てるよねー。体育系の部活に入ってる子は、あぁいう時にタイム測った方が良いよ。

……所で、皆様は一体どちらへ行かれるので?

お嬢様方の黄色い声をきちんと聞いてみる事にする。増殖するから聞き取り辛いけど…えっと?

「『アッフェ』よーっ!!」

「うそうそっ!?何処っ!?」

「あっちっ!!店番してるんだってっ!!」

「きゃあっ!!見に行かなきゃっ!!」

『アッフェ』?

……ん?ちょっと待ってっ?

『アッフェ』って確か……。これってヤバいんじゃない?

軽かった足取りは、重くなったりはしない変わりに一気に速くなった。目的地である透馬お兄ちゃんの店へと急ぐ。

店の付近に来ると、案の定女の海。

砂糖に群がる蟻…ごほごほっ。

「カイーっ!」

「きゃあ、店番してる姿可愛いーっ!」

「ちょっ、あそこでカイと話してるお兄さん超イケメンっ!!」

やっぱりか…。

あの子達は、もうっ。

ちょっと面倒だけど、あの人混みに突入するしかないな。

念の為に髪を結いあげて、と。うん。さ、行くぞっ。

女の人の大群の中を縫って歩くって中々難しいんだよね~。と言う事で…よいせっ。

態とぶつかってっと。

「ちょっとっ」

「あぁ、ごめん。ぶつかっちゃったかな?怪我、してない?」

うん。吊り上がった目が戻ったね。作戦通りです。ニッコリと笑みを浮かべておく。

「えっ!?あ、だ、大丈夫ですっ」

「そう?本当にごめんね?これ、お詫び」

持っていた飴を手の平の上に置いてウィンク。

「あ、あああありがとうございますっ」

「ふふっ。嫌だな。お礼なんて。私が先にぶつかったんだから。っと、ごめんね。実は店の人に用があるんだ。通して貰っても良いかな?」

「は、はいっ」

顔を真っ赤にしている目の前の高校生の頬に軽くキスをして、女性達の群れの中央を進む。

ふふふっ、必殺、葵お兄ちゃんの真似っ!どやっ!

中学時代に培った能力は伊達じゃないのだっ!どやっ!

にしても今日、ジーンズ履いてて良かった。Tシャツにジーンズってラフな格好で本当に良かった。

女性達が自分から道を作ってくれる様に誘導して進み、やっと到着店の前。これ以上は面倒だから、さっさと中に入ってしまう。

「あ、鈴先輩っ」

「やっぱり海里くんだった…」

がっくりと肩を落とす。

『アッフェ』って名前を聞いて怪しいと思ったんだ。

三人のグループ名ちゃんと聞いたことある訳じゃないけど、『アッフェ』…ドイツ語で猿って意味だったから。はぁ。

溜息をつきつつ、店内で私に気付いて手を振ってくれる海里くんとこちらに背を向けている透馬お兄ちゃんとの間に、いけないと思いつつも割り込んだ。

「ん?姫?」

「姫?じゃないよ、透馬お兄ちゃんってば。どうしてここに海里くんがいるの?」

「どうしてって。アルバイト」

「いやいやっ、透馬お兄ちゃんっ。彼ら、もう日本で今急上昇中の人気アイドルだよっ!?アルバイトの必要ないないっ。商店街、女子の海っ!大混乱っ!やったねっ!」

むしろ私の言葉が大混乱。どうしてくれるっ!?

そんな私を微笑ましく見ながら透馬お兄ちゃんは頭を撫でてくる。ふみ~…って違うっ、そうじゃなくてっ!

「売り上げアップだな」

「ふみ?うん、まぁそれは確かに」

うんうん。彼女達が買って行ってくれれば確かに売り上げが上がるし、透馬お兄ちゃん達も儲けれて万々歳…って、だからそうじゃないのっ!

「海里くんっ!事務所の都合とか大丈夫なのっ!?」

海里くんは少しは焦ってくれるよねっ!?

「………すやー……」

「寝てるんかーいっ!安定の居眠りっ!海里くん、起ーきーてーっ!」

近くにあったトレイでペシペシと海里くんの頭を叩く。あ、目覚ましてくれた。

「…?、事務所なら問題ないですよ。むしろ稼いで来いって。顔を売り込んで来いって」

「なんてこったい。タレントの安売りダメ絶対。…もしかして、陸実くんと空良くんも?」

「働いてます」

こっくりと頷く海里くん。否定して欲しかった。しくしくしく…。

「それより、姫。今日の用件は?」

「豚もつ、下さい…」

今度事務所と、三人にがっつりお説教しに行こう。タレントの安売り、駄目、絶対。

「それよりも鈴先輩。聞いてくださいっ」

「うん?なぁに?海里くん」

気付けば海里くんの近況報告を聞きつつも、透馬お兄ちゃんも混ざり三人で談笑していた。

その後、透馬お兄ちゃんが包んでくれた豚もつを手に店を後にする。

…しまった。透馬お兄ちゃんに私のやれることないか、聞くの忘れた…。豚もつだけ買いに行った訳じゃないのに。しかも差し入れの事もすっかり忘れてた。なんてこったい。

いや、でもそもそもさ?申年の三人がバイトを未だに続けてたって事が衝撃的だったせいだよ。今じゃかなりの額を稼いでるトップアイドルだよ?彼ら。それがいち商店街で働いてると誰が思う?それに、確かママが言ってたよね?ルート選択をすると他ルートの攻略対象キャラには会えなくなるって。海里くんだけとは言え…会えた、よね?どゆこと?

……う~ん…解らない。解らないけど、久しぶりに会えたのは嬉しかったなぁ。卒業式以来だもんね。その卒業式だってトップアイドルの三人は何とか時間を工面して会いに来てくれたみたいだし。忙しいのは知ってるから、あんまり無理はしないで欲しいなぁ…とは思ってはいるけど、そこはそれとして、どんな状況でも学生は学生。本分は勉強でしょう?これ幸いと、勉強を怠らせないように宿題はもりっと出しといた。勉強サボってるの、知ってるんだからね。ふふふふふ…。

さて、と。透馬お兄ちゃんの所で時間食っちゃった。しかもしようと思った事何も出来ずに終わったと言う…しぇつない…。とぼとぼとお野菜を買いに、大地お兄ちゃんの所の実家である八百屋へ向かう。…でも、あっちも混んでそうだなぁ。同じ理由から。きっと陸実くんがいると思うんだよねー…。

少し時間を置いてから…にしたら野菜全部なくなってそうだなぁ…。…さっきと同じ手を使って店に潜り込もうかな?だとしても、もうちょっとだけ人が減った頃が良いなぁ…。…うん。ちょっとだけ、ちょっとだけ寄り道しようっと。

今店に女の子が集まってるって事は、同時に他の場所は男の人しかいないって事だもんね。

それを回避する為にも、男の人が行かなそうかつ女の人が普段行きそうな場所に行こうっ。えへへ。クレープ屋さんに新作が入ったって愛奈が言ってたもんね。クレープ食べようっ。決定決定ーっ!

本日最高の軽さで歩き出し、クレープ屋さんへ向かう。クレープクレープぅ~♪

この角を曲がると、公園に~♪

ドンッ。

誰かにぶつかった。

鳥肌が立たない。怖くならないって事は、女性、もしくは知り合いの男性。顔を上げてぶつかった人の顔を見ると、

「姫。ちゃんと前向いて歩いてるか?」

透馬お兄ちゃんだった。

「ふみみ…ごめんね、透馬お兄ちゃん」

謝ったけど、あれ?何の反応もなし?もしや怒ってる?怒ってるの?

透馬お兄ちゃんだったらこう言う時何かしら反応返してくれるんだけど…?

「気になって後を追ってきて正解だった。姫、こっちにっ」

「ふみっ!?」

突然腕を引っ張られ、透馬お兄ちゃんの腕の中に収められる。

一瞬何が起こったのか、解らなくて。

でも次の瞬間に透馬お兄ちゃんは私を腕に抱えたまま、後方へと飛び退いた。

ドスドスドスッ。

私がさっき立っていた所にナイフ…ううん、苦無が三本刺さった。

「…あー…成程。姫、逃げるぞっ」

ひょいっと軽々私を肩に担ぎあげて、透馬お兄ちゃんが走りだす。

透馬お兄ちゃんは敢えて、人混みの方へと逃げて行く。なんで態々人混みの方へと思ったけれど、透馬お兄ちゃんの動きで納得した。透馬お兄ちゃん態と大地お兄ちゃんと奏輔お兄ちゃんの店の前を通った。二人に知らせる意味があったんだ。

それに人混みだと、私単体は狙いにくい。私を抱き上げてる事によって、人混みに紛れても狙い難くしている。

「……姫。今日が何日か、分かるか?」

私を抱え走りながらも息一つ切らさず、透馬お兄ちゃんは小声で私に問いかけた。

今日の日付…五月の八日ッ?

「どうやら、この日が襲撃決行日って言うのは変わらないようだな?」

人がいなさそうな所。公園の隅まで来て、透馬お兄ちゃんは私を地面に降ろした。

「隠れても無駄だ。出て来い」

透馬お兄ちゃんの唸るような声にビクリと私が反応してしまう。

けれど、誰も出て来ない。あれかな?忍びとしてのプライドとか?

「無駄だって言ってるっつーに」

足下にある石を拾って、透馬お兄ちゃんはパッと見誰もいない道へと投げつけた。

ガンッ!

「ふぎょっ!?」

急に姿を目視出来る様になった男が一人、ばったんと倒れた。

命中。所で忍びがあんなにあっさり声だしたら駄目なんじゃない?いくら攻撃を受けたからってさ?…そもそもあっさり当たるのが悪いのか?…うぅ~ん…。

「あと、こっちとー」

「ここやね」

カンカンッ!

音が連続で聞こえて、木の枝がガサガサと揺れて、左右に一人ずつ落下して来た。

「だから無駄だって言っただろうが」

「日本語も解らないのかなー」

「忍びって日本のもんやと思っとったけど違ったみたいやな」

奏輔お兄ちゃんと大地お兄ちゃんが私の後ろからスッと左右を守る様に囲んでくれた。

「俺等の姫を狙うとは良い度胸じゃねぇか。あぁ?」

「潰すなんて生温い。滅する」

「安心しぃや。証拠も残さず抹消してやるで?」

忍び三人が、お兄ちゃん達の圧で数歩後退する。

「さぁ、吐いて貰おうじゃねぇか。姫を狙う理由はなんだ」

口を噤む。しかも視線は泳ぎまくり。

「黙秘する気か?」

「そうされると、意地でも話したくさせたくなるなー」

「全くや」

バキバキ。ボキボキ。

三人が指を鳴らす。

…顔は見えないけど、皆黒い顔してるんだろうなぁ…。どっちが悪役何だか…。

「あぁ、言っとくが」

透馬お兄ちゃんが石を拾って、私の頭上に向かって投げつけた。

何もない所に何で?

と思った瞬間に、

――ドサッ!

「うぐっ…!」

私の目の前に、女性の忍びが落ちて来た。

この人、前に旭と入れ替わったり、私を狙ってきた人だっ。

「女だからと言って容赦はしねぇ」

「むしろ、良い人質だしー」

「確か、忍びは毒も効かないんやったな。でも忍びすら知らない毒ならどうや?」

奏輔お兄ちゃんが懐から針を取り出し、女性の忍びの首筋へと突き付けた。

…凄い。一気に形勢逆転。でも、やっぱり悪人感が強いのは何故?

心の中ではそう感じつつも、私は息を飲んで、これからのやりとりを見守る。

余計な手出ししたら、お兄ちゃん達が危ないかも知れないからね。私はじっとしてます。透馬お兄ちゃんの背に引っ付いておきます。ペトッ、ぎゅっ。

「俺、今なら誰にも負ける気しねぇわ」

言いながら透馬お兄ちゃんが、ポケットから何かを取りだして投げつけた。

ガンッ。

「ぎゃんっ」

透馬お兄ちゃんの攻撃でまた一人落下して来た。透馬お兄ちゃん何投げてるんだろう。透馬お兄ちゃんの背中越しに落ちて来た忍びの側に落ちている飛び道具を覗くと、それはビー玉だった。綺麗な武器だけど…七海って名前書いてあるよ?それ使って良い奴?大丈夫?

そんな私の不安も何のその。透馬お兄ちゃんは次々と忍びを攻撃し、倒しては大地お兄ちゃんと奏輔お兄ちゃんが次々と縛り上げて…これで次から次へと忍びは捕まっていき、この短時間で既に17人目。

一体私一人にどれだけの人員割いたのよ、と思わず遠い目。だって、そうじゃない?忍びなら女一人くらい、一人で狙いに来そうなものを…。あ、また一人落ちて来た。

「これで最後か?」

「いや、まだいるー。右上と左下。更に真正面」

大地お兄ちゃんが手近な石を拾って投げる。しかも三つ同時に三方向。待って。大地お兄ちゃん。それどうやってやるの?私知りたい。やってみたい。

大地お兄ちゃんの投げた石は見事隠れていた忍び三人にあたり、忍びは落ちてきたり、転んだりしてその姿を現した。

それを今度は透馬お兄ちゃんも込みで手早く縛り上げる。

私は透馬お兄ちゃんの背中にぴったりくっついたままです。離れません。離れませんとも。

「これで全員だな?」

忍びにではなく、お兄ちゃん達が互いに確認しあい頷く。

……こんなに私の側に潜んでたなんて。しかも、男の人は三人だけ。他は全て女。要するにくノ一さん達な訳だ。私に気配を気付かせない人達。しかも女性だから尚更気配に鈍感だ。まぁ男の人も気付けなかったけどさ。…流石、忍び。

「…二十二、二十三……間違いないな。これで全員だ。さて」

「尋問するの?」

ひょこっと念の為に透馬お兄ちゃんの背後から顔を出す。

「尋問なんてしねぇよ?」

「そうなの?」

「そんなんしたら、折角掴んだ情報源がいなくなってまうで?」

「だって、捕まえたんだよね?」

そう言う意味があったんじゃないの?

さっき、透馬お兄ちゃんだって、目的はなんだって問い詰めた、よね?

「捕まえたって言っても、こいつらは皆忍びだからねー。逃げられても自害されても迷惑だしー」

秘密を保持する為に自殺しそうって事?

それは確かに面倒って言うか困る。

でも何でかな?この人達自害し無さそうじゃない?私個人の直感に過ぎないけどさ?お兄ちゃん達を顔を赤らめながらガン見してるのを見てると尚更そう思う。

お兄ちゃん達はイケメンだからねー。乙女ゲームの攻略対象者だからねー。目の保養している人間が今この時、死を選ぶ訳がない。

うんうんと頷いていると、唐突に透馬お兄ちゃんが腕まくりをした。

「さ、てと。身ぐるみ剥ぐかな」

「ふみ?」

透馬お兄ちゃんはしがみついている私を奏輔お兄ちゃんに渡して、それはそれは悪い顔で忍びの男の身ぐるみを剥ぎ始めた。

「姫さんはこんなもん見たらあかんで」

むぎゅっと奏輔お兄ちゃんに抱きしめられる。私の視界には奏輔お兄ちゃんの胸だけ。…固い。当り前か。

「ん?これが暗器か?」

「透馬こっちー。こんなのもあるー」

「どれどれ?」

「大地。そっちの男の懐。そこにある紙なんや?」

「これー?えっとー?」

はて?一体何が行われてるのやら?

何も見えないので、どうしようもないんだけど…。

もぞもぞと動いて奏輔お兄ちゃんに潰されそうになった顔を上に向けて呼吸を取り戻しつつ奏輔お兄ちゃんを見上げると、私の視線に気付いた奏輔お兄ちゃんが「ん?」と柔らかく微笑んだ。いっけめーん。って違うよ。私が見上げたのはそう言う意味じゃなくて…。

うーん…。横に動いたり、もぞもぞと態勢を変えよと試みるものの、奏輔お兄ちゃんの腕の中から脱出出来ず。奏輔お兄ちゃん、あくまでも私に身ぐるみ剥ぐシーンは見せないつもりのようです。…じゃあ、もう、仕方ないか。

奏輔お兄ちゃんの細くて憎い腰に腕を回して、ぐりぐりと胸に額を擦りつける。奏輔お兄ちゃんって男なのに良い匂いがするんだよね~。えへへ。

「……良し。透馬、大地。後は任せたで。俺は姫さんが可愛くて仕方ないから帰るわ」

「意味わかんねーしっ」

「ズル過ぎーっ。オレだってこんなむっさい男より姫ちゃん触りたいー」

「セクハラやで、大地」

ふみ~?この香りって何なんだろう?そう言えば、奏輔お兄ちゃんのベッドからも同じ香りしたかも。…体臭っ!?体臭なのっ!?奏輔お兄ちゃん、実はお……げふんっ。何でもない。奏輔お兄ちゃんの名誉を私は守るのよーっ。

ん?今お兄ちゃん達何か言った?セクハラって言ってた?

……もしかして、私セクハラしてますか?してますかーっ!?………自重します…しょんぼり。

「…ま、こんなもんか?」

「だねー…。流石に体内に隠されてる物は取りだせないだろうし。一先ずここに放置?」

「いや。一応金山さんに連絡しておいた」

「そやったら、帰ろか」

おお?終わった?

奏輔お兄ちゃんの腕から解放されて、すかさず忍び達の方を見ようとしたけれど、大地お兄ちゃんの体で防がれた。なんてこったい、凄い連携。

こうして私は忍びのしの字も見る事なく、無事、傷一つつくことなく商店街へと戻る事が出来たのだった。

剥いだ身ぐるみを持って大地お兄ちゃんの家にお邪魔して、さっきまで勝利お兄ちゃん達もいたんだけど、店番に戻って行った。

にしても何で大地お兄ちゃんの家?疑問に思ってお兄ちゃん達に聞いたら……まず敵は来ない場所と言ったらココだ、と胸張って言われた。否定は出来ないのが何とも言えない。

勝利お兄ちゃん達に大地お兄ちゃんが今の状況を伝えてくれた。勿論話せる所だけだけどね?そうしたら、もう、目が座っちゃって…。絶対守ってくれるそうなので…。少しでも怪しい気配を感じたら客でも殴りそうな感じだったけど、絶対守ってくれそうなので…。何事も限度という物があると思うんだけどなー…遠い目再び。

それはさておき。

早速追い剥いだ物の物色と作戦タイムですっ。

「で、だ。あいつらが持ってたのはこれで全部だ」

どれどれ?透馬お兄ちゃんが並べてくれたのを順番に見て行く。

まずは、服。忍び装束って奴だね。上と下。

「この服の裏には、暗器と財布か?しかも財布は有名ブランドのものだな」

金無いのに何買ってんねんっ!

…思わず突っ込んじゃったじゃない。全く。

「暗器は、手裏剣、苦無、あと…これは液状の…毒か?」

「もしくは薬ー?」

「他は?」

お財布の中って何入ってるのかな?

お兄ちゃん達が危ない所調べてくれてるから、私は安パイな所を調べよう。

お財布を手に取って、中を見る。…お金はかなり入ってる。それから…これ、クレジットカード?ふむ。これは、大事だね。

借金まみれの人間がカードを使うんじゃない。制裁制裁、っと。スマホを手に取り、華菜ちゃんにメール。えーっと、カードの利用を停止の手続きをよろしくっと。うん、これで良し。

他には何かないかな?

…ん?この紙何だろう?お札の間に挟まってるの。レシートかな?

ひょいっと取り出して…かなり小さく折られている紙を開いていく。

これってなんだろう?

開いた紙には、こう書いてある。

『聖なる乙女の生き血を捧げよ。さすれば、扉は開かれん。

 聖なる乙女は黄金を持つ。

 聖なる乙女は美しさを持つ。

 聖なる乙女は清さを持つ。

 聖なる乙女は慈しみの心を持つ。

 聖なる乙女は明日を持つ。

 聖なる乙女の生き血は我を呼ぶ。

 聖なる乙女の生き血を捧げよ。さすらば、扉は開かれん。

 扉の先には、汝が望む全てがあるだろう』

………え?

ふぅと息を吐いて。

開いた紙を閉じて、折って折って折りまくって。

トテトテと歩いて、座って検分している透馬お兄ちゃんの背中にダイブっ!

「うおっ!?なんだっ!?姫、どうしたっ!?」

「キモッ!!」

「俺がかっ!?」

透馬お兄ちゃんのショック顔。いやいや、違うから。

私は小さくしまくった紙を透馬お兄ちゃんに渡した。

疑問符を頭上に置きながらも、透馬お兄ちゃんは素直にその紙を開く。

奏輔お兄ちゃんと大地お兄ちゃんも一緒になって透馬お兄ちゃんに渡した紙を一緒に覗き込んだ。

三人の視線が文字を追うごとに、段々顔が険しくなっていく。うんうん。解るよ、その気持ち。さっきの私そのもの。

「…まさか、あいつらこれを信じて姫を襲ったのか?」

「バカー?」

「バカって言葉が勿体ねぇわー」

「まぁ、うちの姫が聖なる乙女って言うのは、納得だけど、だからってこれはないだろ」

「えっ!?納得するのっ!?聖なるって、ないないないっ!清くも美しくもないないっ!」

全身全霊をかけて否定っ!例えヒロインの外見だとしてもっ、中身がこれだからねっ!?清く何てないないっ!

と言う私の全力主張は華麗にスルーされて会話は続く。むー…。

「姫。むくれても可愛いぞ。それより、ここ、気付いたか?」

「ここ?」

透馬お兄ちゃんが指さす所を透馬お兄ちゃんの背後から覗き込む。

紙の下の方だね。切り取られた跡があるけど…?

透馬お兄ちゃんが言うって事は、きっと切り取り跡の事じゃないよね。なんだろう…?

じー……あっ!

透馬お兄ちゃんが指さしてる所の横。何かマークがある。小さい上に本当にマークの一部しかないから気付き辛かったけど。

「ほんの少ししか見えへんけど…これって藤の花ちゃうか?」

「藤?」

「あぁ、姫さん。ここ見てみ」

奏輔お兄ちゃんが指さしてる所を透馬お兄ちゃんの肩から身を乗りだして覗き込む。…確かにある。これってもしかして?

ステータス画面を開いて、入手アイテムから藤硬貨を取りだす。

「ねぇ、お兄ちゃん達。それってこれじゃない?」

透馬お兄ちゃんの手に藤硬貨を置く。一応表にして藤の花が見える様にしておいた。

「確かに、これと同じだ。姫、これどうした?」

「失敗した時に手に入れて、入手アイテム欄に勝手に保管されてたんだ。この硬貨だけは何故か知らないけど、いつも勝手にポケットに入っててね。藤硬貨って言って…」

金山さんから聞いていた事をもう一度改めて教える。

「透馬。奏輔。姫ちゃん。見て、これー」

大地お兄ちゃん?

それはさっき私が探ってたお財布?

小銭入れの所を開いて、財布をあっさり逆さまにした。

ジャラジャラと音を立てて落ちた硬貨は…藤硬貨?しかも全部?

奏輔お兄ちゃんが落ちた硬貨を一つ拾い、じっとそれを見て何かを考え込んでいる。

「どうしたの?奏輔お兄ちゃん」

「や…。何か引っかかるんよ。…藤…」

「あ、やっぱり?私もそうなの。ずっと藤ってのが気になって」

いい加減透馬お兄ちゃんの肩から降りて、私は透馬お兄ちゃんと奏輔お兄ちゃんの間にちょこんと座る。

藤…藤…。藤と言えば?淡い紫の花。棚上から花の房が降りて、それを棚下から見上げるととても綺麗だったり。「優しさ」「歓迎」「決して離れない」「恋に酔う」なんて花言葉があったりする。それに藤って昔は女性を例える花として使われてたりしたよね?あとは紫色で高貴な人間が使う色だったりした。後なんだろう…?

「…あれ?透馬。これ見てよー」

「なんだよ?免許証?」

免許証?

脳内検索を一旦止めて奏輔お兄ちゃんと二人、その免許証を覗き込む。

「しっかり住所まで書いてるね」

「本当の住所かは解らないけどな」

「うーん…調べてみる?」

スマホを取りだして、華菜ちゃんに連絡。今知った住所とその周辺の情報を探って欲しいと依頼すると、直ぐに返事が来た。

『それって隣県の高級住宅街の住所だよ。後藤さん宅だね。世帯主は後藤鉄平さん。周辺情報と言っても住宅街だからそれらしい情報は何もないと思う』

『そっか。ありがとう。華菜ちゃん、大好きっ!』

『私も大好きっ!美鈴ちゃんの為なら何でもするよっ!なので、周辺情報詳しく探ってみるねっ!』

……後藤。免許証にも後藤鉄平と書いてある。にしても、後藤…後藤…知り合いにいる訳じゃないのに、何だろう。引っかかるなぁ…こう、喉に魚の小骨が刺さってるみたいに、もやもやする。

「本当の住所ー?」

大地お兄ちゃんの言葉に我に返る。今は考え事を置いておくんだってば。私の悪い癖だなー。

我に返った所で、お兄ちゃん達の様子をみると、皆残念な物を見る目で免許証を見ていた。

「バカだろ」

「うーん。そもそも取られるつもりなかったんじゃない?実際お兄ちゃん達がいなかった時、私は負けて殺された訳だし」

あ、三人の目がギラリと光った。もしかして、私失言した?……み、見なかった事にしておこう。

「他の奴の財布も見てみるか?」

そう言って他の人の忍び装束を探り始めたお兄ちゃん達。そんな時、追加でまた華菜ちゃんからメールが届いた。

『ちょっと過去の記録を遡って探ってみたんだけど、その高級住宅街の周辺って埋立地だったみたいだよ。高級住宅街って言われている場所に昔はなだらかだけど広めな丘があって、そこにお金持ちが住み着いてどんどん土地を開拓していった、とか言われてみるみたい』

その金持ちってさ、表門の事じゃない?金山さんの話によると裏門の金品を全て明け渡したそうだから、移住した当初は当然お金持ちだっただろうし。…ちょっと単純すぎない?でも相手は忍びの能力がないとは言え、あくまでも忍びだからなぁ。全て嘘の情報で構築されてて、私達がその嘘に翻弄されて騙されているって、可能性がない訳じゃないんだけど…。何でだろう。これまでの表門の襲撃も色々と踏まえた上で騙されている可能性が恐ろしく低い気がするんだよね。うぅ~ん…。

「姫。見ろよ、これ」

透馬お兄ちゃんに声をかけられて、見てみろと言われたので覗いて見る。

「武藤忠(むとうただし)、後藤岩治(ごとうがんじ)…。本名丸出し?透馬お兄ちゃん。こっちもほら」

華菜ちゃんがくれたメールをお兄ちゃん達に見せて共有した。

すると透馬お兄ちゃんは、はぁと大きくため息をついて。…うんうん。その気持ちすっごく解る。

「住所を見る限り、こいつら全員同じ場所に住んでるらしいな…。どうする?姫」

「……もう、こっちから乗りこんじゃう?」

「だな。一回目の襲撃も回避して、得るべき情報も手に入った。ならこっちから反撃に出ても良いだろ。それにもし、奴らに何らかの目的があって、この紙通りに俺等の『大事な姫』の、『大事な姫』の生き血、命を狙うのであれば、容赦しねぇ」

「透馬お兄ちゃん。嬉しいけど何で二回も…?」

「大事な事は二回言う」

キリッとされた…。

「なんにせよ、こいつらは一度叩く必要がある。現代日本で人の命を狙わなきゃならないって言うリスクを背負う理由が金以外にもあるはずだ。それを知らなきゃ、どう叩いていいかも解らねぇ」

透馬お兄ちゃんの言葉に私達は頷く。

「じゃあ、行こうっ」

立ち上がった私に頷き返して、お兄ちゃん達も立ち上がる。

「俺等の大事な姫に手出した報い受けて貰おうじゃねぇか」

「絶対逃がさねぇー」

「姫さんは守ってみせるからな。安心しぃ」

頼もし過ぎるお兄ちゃん達に笑顔で答え私達は大地お兄ちゃんの部屋を出た。

奏輔お兄ちゃんと透馬お兄ちゃんが準備してくると一旦帰宅して、大地お兄ちゃんが車を回してくると出て行ったので、私は勝利お兄ちゃんと一緒に店内で待つ事にした。

勝利お兄ちゃんが苺に練乳をかけて出してくれたので、ありがたく頂いてうまうまする。

ほんと、大地お兄ちゃん家の果物って美味しいよねー。この苺だって練乳かけなくてもとても甘いし。今度苺買って帰って、ケーキ作ろうかな~。ムースもありだよね~。

「……今までの人生でこんなに店番が楽しかった事があっただろうか?いやないっ!!」

「ふみ?勝利お兄ちゃん、大丈夫?足が変な方向に曲がってるよ?」

「天使っ!!」

「ふみみ?」

大変だ。勝利お兄ちゃんが私と会話してくれない。あと、足だけ店の外向いて、膝より上が私の方をずっと向いてガタガタしてるんだよね。勝利お兄ちゃんが私に何かするなんて事は絶対にないと解ってるから怖くはないんだけど、いや、あの足の角度は怖い。勝利お兄ちゃんしっかりっ。

勝利お兄ちゃんのおかしな体を見てる事数分。

「お待たせー、姫ちゃん。さ、行こうかっ」

「う、うん?…勝利お兄ちゃん、苺御馳走様でした。今度は買いに来ますね」

ニッコリ笑って空になったお皿を座ってた椅子に乗せると、勝利お兄ちゃんは、

「天使っ!!」

と言いながら崩れ落ちた。おろおろするなって方が無理だよねっ、これっ。

慌てて大地お兄ちゃんを見たら、

「気にしないでー。丑而摩家の持病だからー」

「え?そうなの?」

持病と言って大きく頷かれた。あんなに自信満々に頷かれたら、他に何も言えない。

「待たせたな、姫さん」

「さて、行くか」

透馬お兄ちゃんと奏輔お兄ちゃんがタイミング良く戻って来たので、大地お兄ちゃんが回して来てくれた車に私達は乗りこんだ。

運転席に大地お兄ちゃん、助手席に透馬お兄ちゃん。後部座席に奏輔お兄ちゃんと私が。全員が座りシートベルトをしたと同時に車はスムーズに走りだした。

車は華菜ちゃんの家の前を通る。華菜ちゃんが自室の窓から私に向かって手を振ってくれた。それに私も手を振り返す。華菜ちゃんは今回はお留守番。理由は勿論危ないから。命の危険があるような場所へ連れてなんて行けない。メールで華菜ちゃんに報告したら、納得してくれた。メールの返信には了承の旨と、何かあったらいつでも電話してと書いてあった。うぅ…華菜ちゃん、大好きっ。あと私が買ったもつ肉と野菜は透馬お兄ちゃんが届けてくれたらしい。「冷蔵庫に入れて置くから帰ってきたらもつ鍋を作って」とメールの返信に書いていた。華菜ちゃんの為なら喜んで作るよっ!と大文字に変換して返信しておいた。

華菜ちゃんとやりとりを終え、私は窓の外を見る。

流れる景色は、どんどん見慣れない景色へと変化して行った。

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  • 乙女ゲームのヒロインに転生しました。でも私、男性恐怖症なんですけど…。外伝!   第三十二話⑥ ※※※

    あれから一ヶ月が経過した。私は今、華菜ちゃんと逢坂くんの三人でテレビの前に待機している。本当は空良くんの様子を見つつ、静かに田舎に帰ろうかとも思ってたんだけど、奏輔お兄ちゃんがしっかりと鴇お兄ちゃん達と情報共有をしてくれたおかげで私は今も尚ここでこうしている。そして、何で私達がテレビの前にいるかと言うと。奏輔お兄ちゃんが、『結構良い感じに仕上がった。空良があんなにやる気に満ちた姿はレアやで』って言うので、これは見なきゃとなりこうして待機している訳です。アイドル番組とかあんまり見ないけど、これは対抗戦らしいので普通のアイドル番組とはちょっと違うっぽい。男子の部、女子の部で別れていて、その中でも競う競技が別れている。ダンス、演技力、トーク力、あとは歌とか。他にも様々な部門があるらしい。アイドル個人の実力を魅せる場、って奴みたい。女子の部にはユメも出るらしくて、全力で応援する為にスピーカーを購入しましたっ!だってちゃんと聞きたいじゃないっ!もしも、ユメの番の時少しでも機材故障とかされたら私ユメのモンペになる自信がある!即クレーム出しちゃうっ!……いや、しないけどね。クレームの対応って本当大変なんだよ…、本当に大変で…。「美鈴ちゃん?」「クレーム対応って地獄だよね…」「いきなりどうした、白鳥。目が虚ろだぞ?」「うへへへへ…」「駄目だな、こりゃ」どう言う意味かしら、逢坂くん?すっかりこの前、白鳥財閥店舗に視察に行った時、クレームオジサンに遭遇してバイトの女子高生が責められて彼女の代わりにクレーム対応したのを思い出しちゃったよ。えっと、なんだっけ。そうそうアイドルの対抗番組の話だよね。あー、っと?誰が何に出場するんだっけ?確か、ユメと空良くん、それからあの女子アイドル二人は歌の部。陸実くんはダンス、それから海里くんは演技の部、だったかな?そういえば審査の方法をちゃんと見てなかったっけ?テレビを見ると番組が始まり、審査員の紹介と審査の説明をしている。審査員には各十点ずつ持ち票があるのか。で投票点数が一番多い人が優勝。審査員には有名事務所の社長とか番組のスポンサー、後はアイドルでデビューして今はマルチタレントとして活躍している人とかがいるみたい。勿論その道のプロ的な人も一人いて、更には視聴者も得票数に入るようだ。視聴者票が一番多い

  • 乙女ゲームのヒロインに転生しました。でも私、男性恐怖症なんですけど…。外伝!   第三十二話⑤ 三猿の成長~緑の言わ猿編~(申護持空良の場合)

    どの文字の犯人を捕らえるか。 二行目の女子感がある文字の犯人が一番探しやすいかな、と思ったんだけど。 女子だし。女子でアッフェを恨んでるって中々ないと思うんだよね~。 ……派手に振られでもして逆恨み、的な? なくはないと思うんだけどさ。う~ん……ユメに聞いた方が早い気もするけど…。 「……姫さん?」 「?、あれ?奏輔お兄ちゃん?」 「何してるん?」 「え?ズタボロにされたあの子達の制服を繕ってる」 「繕うって、あの惨状はもう買った方早ない?」 「んー…そうなんだけど。あの子達悲しそうな顔してたから。明子さんに買って貰った制服だろうしね。戻せるだけ戻しておいてあげようかな、って」 「成程な。けどな、姫さん」 「なぁに?奏輔お兄ちゃん」 「あいつらももう高校生なんだから、アップリケはやめてやってや」 「ふみぃっ!?可愛くないっ!?このお猿さんっ!?」 「いや可愛いか可愛くないかで言われると可愛いけども。そのアップリケが通じるのは流石に小学生までちゃうか?」 「……なんと言う…」 しょんぼりと肩を落とす。 なんてことなの…。アップリケ刺繍がダメなんて…。折角昔に作ったアップリケの活躍の場があると思ったのに…。 因みにこれ皆分あるんだよね。皆をモデルにして作ってるから。樹先輩の龍のアップリケを作るのどんなに苦労した事か…。鱗がある生き物は大変なんだからっ。 ……話がそれた。 取りあえず、私と奏輔お兄ちゃんはあの子達に新しい制服を用意して、仕事が終わるのを待ちそのまま寮へと送り届けた。 私がアップリケを縫ってしまった制服は、私が預かり捨てるのも勿体ないので縫いぐるみのお洋服としてリメイクして渡す事に決めた。そして翌日。 彼らを迎えに行った陸実くんの部屋で事件は起こった。 陸実くんが意識を失った状態で水を出しっぱなしにされた密室状態のバスルームに放置されたのだ。 大地お兄ちゃんが駆けつけて、陸実くんは事なきを得たけれど…。 陸実くんは病院へ大地お兄ちゃんが連れて行ってくれた。 私達がここに来た時、入れ違いで海里くんが何かを叫んで出て行って、慌てて私も追い掛けようとしたけれど、透馬お兄ちゃんが任せろと言ってくれたから私はその場にとどまる事にした。 水浸しの陸実くんの部屋に入ると、そこには空良くんがいて。ほっぺが赤いんだけ

  • 乙女ゲームのヒロインに転生しました。でも私、男性恐怖症なんですけど…。外伝!   第三十二話④ ※※※

    「…なんでボクの家にお前がいるんだっ!」 「そもそもここお前の家じゃねぇし」 そう。ここは海里くんの家ではないし、寮の部屋でもない。 もっと言うなら、そもそも家でもない。 私が急遽取った旅館の一室でございます。 ホテルでも良かったんだけど、環さんの強い希望で旅館になった。 そして…何故私まで…? 「透馬お兄ちゃん、詳しく」 「いや、俺も解らない。むしろ何でここにいるんだ、俺達…」 「……ねー」 仲良く湯呑に入れたお茶を飲んでいる場合じゃないってのは解ってるんだけどね。 海里くんと環さんが一色触発状態でほっとく訳にも…ね。 「とにかく落ち着けよ。猿じゃあるまいし」 ……うーん。 なんか楽しそうだな~、環さん。 ちょっと見守ってようかな。 「この俺がわざわざ収録終わりの眠りこけてるお前を運んで来てやったんだろうが。感謝しろっての」 「感謝ってっ!」 「あ、それはちゃんと感謝しようね。海里くん。いつも思ってたけど、所構わず寝ちゃ駄目だよ?もう有名人だって自覚しようね」 「えっ!?あ、はい…」 「じゃあ、海里くんと環さんもお茶飲む?淹れるよ?」 「俺は酒の方がいいなぁ」 「この後お仕事ないんだったら構いませんよ~?ご飯食べに行く~?この旅館、飲食スペースあるらしいからさ。この部屋のお向かいがそうらしいよ?」 「あ、あのっ、鈴先輩っ」 「ご飯食べながら環さんに話を聞いたらいいよ~」 「だな。そうするか」 透馬お兄ちゃんが湯呑を置いて席を立ち、それにならって私も立つ。 環さんが暴れる海里くんをあっさりと小脇に抱えて一緒に部屋を出た。 目の前にある飲食スペースには机と椅子が四脚。 私と透馬お兄ちゃんが並んで座り、向かいには環さんと海里くんが座った。 丁度食事の時間だった事もあり、仲居さんが食事をお持ちしますと一言告げて廊下との境にある仕切りを閉めてくれた。 「鈴先輩。本当に聞いても良いでしょうか」 「どうぞー。好きに問い詰めてー」 許可を出した途端、海里くんはくるっと首を環さんの方へと向け立ち上がった。 何を言うのかな?と。私達は海里くんの行動を見ていたのだけど。 しゅるるぅと座り込んでしまった。 「何だ?何も言わないのか?」 環さんがニヤニヤと海里くんを煽る。 「………言う必要がなくなったので」 「

  • 乙女ゲームのヒロインに転生しました。でも私、男性恐怖症なんですけど…。外伝!   第三十二話③ 三猿の成長~青い見猿編~(申護持海里の場合)

    どの文字の犯人を探し当てるか。私は三行目の幼い感じの文字を書いた判別つきやすいかなって考え、その文字の人間を探すと判断した。まずは事務所に戻って、この文字を書いたのが誰なのかを調べる必要があった。そもそも莉良さんの事務所ってあんまり幼い子がいるイメージがないんだよね。あの子達やユメが年若い方の部類に入るって言う認識でいた。それはどうやら真珠さんや透馬お兄ちゃんもそうだったらしくて。透馬お兄ちゃんの運転で事務所に戻ったら案の定結果は私達の知る結果と大差なかった。「でもあれ、正直幼稚園児とか小学生の文字だよね?」「まぁ、文字だけ見るとそうかもしれねぇけど。文字が下手な大人なんて多々いるだろ」「あー、それは確かにー」そっちの線で調べた方が良いかもしれない。莉良さんに文字が下手で何書いているか読めない人って事務所含めどのくらいいる?と問うと数人の名前が上がって来た。その人物の名前だけメモを取って。事務所を出て透馬お兄ちゃんの車の中でスマホで画像検索をする。「……あ」「どうした?姫」「この人だけ見覚えがある」「どいつだ?」「このアイドルグループ縁舞(えんぶ)のリーダー」「どれどれ…あぁ、こいつか?」この前ナンパして来た人達の中にいたな~。って言うか、今縁舞で検索したら画像に出て来た五人。あの時ナンパして来た五人と一緒だわ。……アイドルって職業してるのにナンパってってどうなのよ。そう言えばこの人達面談受けなかったな。成程。前の社長に縁がある人達って訳ね。縁舞、サイン、で検索したら出て来ないかな?筆跡を確認する為に試しにサインを検索したら結構な数が出て来て。リーダーであるカンって人の文字が恐ろしいほど下手くそで、しかもあの紙の文字にそっくりだった。「……もう確定なんじゃない?」「だな。現場を取り押さえた方が早そうだから暫く泳がせとくか」「そうしよっかー」「って所で今日はもう送るからな」「うん。透馬お兄ちゃん、ご飯食べてく?作るよ?」「あー、寄りたい所だけど、鴇とちょっと約束あるんだよな」「そうなの?じゃあ鴇お兄ちゃん、ご飯いらないのかな?」「連絡して聞いてみたらどうだ?」「ふみ。そうする」なんていつも通りに過ごした日の、翌日の朝。事件は起こった。念の為にと、海里くん達の寮へと寄ったんだけど。「……陸っ!

  • 乙女ゲームのヒロインに転生しました。でも私、男性恐怖症なんですけど…。外伝!   第三十二話② ※※※

    「うめーっ!!超うめーっ!!」 「ふふっ、ありがとう。でも出来れば座って食べてね?」 一口食べては立ち上がる陸実くんを注意しつつ、お代わりのご飯を茶碗に山盛りにして大地お兄ちゃんに渡す。 「姫ちゃんのご飯食べれるだけでも、陸実のマネ受けた意味あるわー」 「大地お兄ちゃん、おかず足りる?追加で作ろうか?」 「良いのー?って言いたい所だけど、姫ちゃんもちゃんと食べることー。後で双子に怒られるぞー?」 「ふみっ!?…じゃあ、大地お兄ちゃんの美鈴特製生姜焼き追加で焼いたら、食べる。陸実くんは?お代わりどうする?」 「食うっ!!って言いたい所だけど、多分、カロリーとか」 「ふっ。私が計算してないとでも思って?」 「だよなっ!じゃあ食べるっ!!」 よしよし。一杯食べさせようっ。 勿論太る程食べさせたり栄養を偏らせたりはしないけれど。今日あんな目にあったんだし少しくらい甘やかしても良いと思うの。 「……お姉ちゃん。僕達もお代わりっ」 「はいはーいっ!旭達も一杯食べて一杯大きくなるんだよっ!」 「うんっ」 「「「おーっ!」」」 どうしよう…家の子達(陸実含む)が滅茶苦茶可愛いっ! そしてそんな可愛い子を狙った奴、許すまじっ! ピロン。 ピロピロピロン。 「さ、てと。私は陸実くんの着替えの用意して来ようかなー」 ピロン。 「こら、姫ちゃん。ご飯ちゃんと食べる約束でしょー」 「…ふみぃ…バレたー…」 ピロピロン。 「………ねぇ?陸実くん?」 「ふぁ?」 「さっきから陸実くんのスマホ、大合唱してるんだけど…?」 「気の所為だろ」 ピロピロン。 「いや、めっちゃ鳴ってるから」 「気のせい気のせい」 「いいの?見なくて」 「誰からかは解ってるし、ちゃんと横目で見てるから平気だ」 「そう?なら、いっか」 とか言いつつ、私が視線で陸実くんの携帯をみていたら、陸実くんも流石に気になったのか、音を切って裏返しに置いてしまった。 その後ちゃんと私もご飯を食べ終えた。私が後片付けをしている間に大地お兄ちゃんが陸実くんの宿題を見てくれて。 二人にデザートを出そうかなと紅茶の茶葉を取り出した時に、華菜ちゃんとユメが家に突撃して来たので、二人の分も一緒に準備して。 結構騒がしく一日が終わった。 ……陸実くんが変なトラウマを持つ事な

  • 乙女ゲームのヒロインに転生しました。でも私、男性恐怖症なんですけど…。外伝!   第三十二話① 三猿の成長~赤い聞か猿編~(申護持陸実の場合)

    どの文字の奴から犯人を捜すか。 色々考えたけど、文字を見て一番単純そうなのが一行目の文字の奴だと思ったので。そこから開始することにした。 とは言えあの後は皆それぞれ仕事があったから、あの場はあれで解散。 で、翌日である今日の朝。 念の為に、三人のいる寮へ行ったんだけど、そこで事件が起きていた。 「陸ーっ、本当に大丈夫なのっ!?」 「………………いっそ蹴破る?」 陸実くんの部屋の前で海里くんと空良くんが慌ててドアを叩いて何か話していた。 「おはよう、海里くん、空良くん。何かあったの?」 「あ、鈴先輩。実は、陸が中から出て来なくて」 「出て来ない?鍵でもされてるの?」 「いえ。鍵はかかってないんです。ほら」 海里くんがドアノブを回すと確かに最後まで回るし、小さくドアが動く。 鍵がかかってたらこんな風にドアが緩く動く筈はなく、ガチンッと鍵のかかっている音がなる筈だ。でも開かない。 「陸実くんは中にいるんだよね?」 「はい。遠くからですけど声がするので」 「遠く?」 ドアの向うにいるんじゃないの? ドアに耳をピトッとつけてみると、 「―――ッ!―――!!!」 確かに何か言ってる声はしている。確かに声は遠いな…。 「取りあえず何処か体調が悪いとかじゃなさそうだね。……でもこのままだと陸実くんの仕事に支障が出ちゃうし。………蹴破ろうか」 ニッコリ。 今大事なのはドアじゃなく陸実くんの安全と仕事です。 「じゃあ、やっちゃおうかー。姫ちゃん、ちょっと離れててねー」 実はずっと後ろにいてくれた大地お兄ちゃんが、私達に下がる様に言うとドガンッとそれはもうあっさりとドアを蹴破って開けてくれた。 開いたドアの向こうに大地お兄ちゃんが先行して入ってくれた。 その後ろを私がそーっと入った。 んん?ドアを閉じていたのは何だったんだろう? ドアの周囲に何か……ガムテープ?しかも色とりどりのガムテープがべったりと。 何で内側にこんなガムテープがあるの? 「うおおおおおっ!!変な音がしたああああっ!!やべえええっ!!こえええええっ!!」 ………駄目だ。陸実くんの変な叫びの所為で全く頭が回転しないや。 中に入ったから声がしっかり聞こえてきている。 え?でもこの声って…反響してる…まさかっ!? 「大地お兄ちゃんっ!」 「解ってるっ!

  • 乙女ゲームのヒロインに転生しました。でも私、男性恐怖症なんですけど…。外伝!   第三十二話② ※※※

    「…美鈴?」声が聞こえて目を開くと、ママのドアップ。「美鈴。何をぼんやりしているの?早くその本を持って廊下に出てみなさい」そしてまたこのセリフ。私の手にはセーブの本。流石に二度も同じ事があれば、夢でも幻でもないって理解出来る。いや、元々夢の可能性は大分低かったんだけどね。そしてもう一つ、夢を否定するに思い至る理由がある。ここに、いつもママのドアップがあるこの時に戻る理由。こんな事現実的じゃないと思って、つい思考から排除してたんだけど…。でも…もう、そうとしか考えられない。私はやはり『手に持っていた』本を開いた。そこに書いてある文字は、私の文字。『ハートの意味が解らない。

  • 乙女ゲームのヒロインに転生しました。でも私、男性恐怖症なんですけど…。外伝!   第三十二話① 表裏の輪

    私の視界は真っ暗闇の中。 ふっ。私を舐めないで貰いたいわねっ。 毎度毎度この真っ暗闇を見ていたら、もう分かるもんねっ! ズバリ、私は気を失っているっ!どやぁっ! ……。 ………。 ……………しくしくしく。全くもって威張れたことじゃないのよぅ…しくしくしく。 何で私はまた意識を失ってるのー…。 えっと…、私は何でこうなってるんだっけ?気を失う前は確か…。 確か私は旭と一緒に買い物した帰りに、旭に扮した表門の人に刺されてー…はて? そこから記憶がないと言う事は、私はあそこで気を失ったって事だよね? んで、今現在意識がない、と。そう言う事だよね? でも

  • 乙女ゲームのヒロインに転生しました。でも私、男性恐怖症なんですけど…。外伝!   外伝第一章 御三家ルート 第三十一話 無限ー御三家編ー

    ※ このお話は本編である『乙女ゲームのヒロインに転生しました。でも私、男性恐怖症なんですけど…』の三十話から続くお話です。まだ本編をお読みで無い方はまずは本編からお楽しみください。「姫。この鎖主体のデザインと、薔薇主体のデザイン、どっちが可愛いと思う?」「んー…、私としては薔薇の方が可愛いと思うんだけどー…、遠目から見てどっちが可愛いと思う?大地お兄ちゃん」「鎖デザインのネックレスと、薔薇デザインのブレスレットー。成程。姫ちゃんが一番可愛いー」「俺もそう思う。姫さんが一番可愛い」「確かに。姫が一番可愛いな」「ちょ、ちょっと三人共っ、デザインの話でしょーっ。私は関係ないでしょーっ。

  • 乙女ゲームのヒロインに転生しました。でも私、男性恐怖症なんですけど…。外伝!   第三十三話③  ※※※(奏輔視点)

    佳織さんが転移させた場所。それは、 「おかえりなさい。佳織」 源祖父さんの家。佳織さんの実家の庭だった。出迎えの言葉をくれるヨネ祖母さんの声が尚更転移した事実を実感させた。 だが確かにここは地図に載らない場所。安全ではあるかもしれない。けれど俺達は皆この場所を知っている。 逃げ場としては、あまり良くないのでは? 俺の疑問は顔に出ていたんだろう。 佳織さんは俺の顔を見て、静かに首を振った。 「大丈夫よ。奏輔くん。ここからもう一度転移するから」 「え?」 「私の秘密基地へ移動するわ」 頷いてから佳織さんはヨネ祖母さんの方を向く。 「母さん。頼んどいたあれは」 「ちゃんと配

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